コラム孫右ヱ門
お茶に纏わるモノ・コト・道具vol.1 「よしず」とヨシ原のお話
2015年3月19日
今回は、弊社の「ほんず製法」には欠かせない道具、「よしず」の原料となる葦(あし)の草原、ヨシ原のお話です。
「ほんず製法」とは、一般的な化学繊維で茶畑を覆う方法とは違い、「よしず」と「わら」で日光を遮る伝統的製法のひとつです。
わら振りという技術の難しさや、よしずの入手が困難となってきたことにより、現在では弊社を含め、全国でもこの製法を行う農家は数件となりました。
「よしず」と「わら」の折り重なる層が、絶妙に日光を遮るので、柔らかく色鮮やかな茶葉が育ちます。
今年も茶棚に「よしず」を上げる季節が近づいてきました。
茶棚に上げる「よしず」は毎年全て新しいものに取り替えるのではなく、悪くなった部分だけよしずの原料となる葦(アシ)を買い足し、編んで補修をします。
弊社では、京都市伏見区の宇治川沿いにあるヨシ原の葦(アシ)を使用しています。
<ここで補足ですが、葦(アシ)は関西ではヨシと呼び、ヨシでできた製品を「よしず」と呼びます。葦もヨシも全く同じイネ科ヨシ属の多年草ですが、一般的に関西では「ヨシ」と呼ばれています。「あし」が「悪し」に通じるのを忌んで、その反対語の「よし」「善し」と言い換えたのが定着したと言われています。>
コラムでは、以後ヨシと表記します。
京都市伏見区、宇治川河川敷一帯にヨシ原はあります。
背の高いものでは4mにもなるヨシが一面に生えています。
このヨシ原の管理者で、山城萱葺株式会社(http://www.yamashiro-kayabuki.co.jp)の代表、山田雅史さんにお話を伺いました。
編集担当:ヨシ原はどのくらいの広さがあるんですか?
山田さん:35ヘクタールほどです。
編集担当:このヨシ原は古くから管理されているのですか?
山田さん:
分かっているだけで、私で五代目になります。古くからこの地域のヨシは質が良いので、ヨシで生計を立てている人が多かったんです。
でも茅葺屋根が減り、中国から安価なよしずが入ってきて、ヨシの需要が減ってしまいました。
ですから、今では京都でヨシ屋をやっているのはうちだけになってしまいました。
元々はヨシを刈って茅葺職人さんなどに売っていましたが、茅葺のお得意さんもどんどん減って、残った職人さんも高齢化していく中、ヨシを売るだけではなく、自分で使わなければこのヨシ原は守れないと思いました。
それで、建築の勉強をしていた私は、自ら茅葺職人になりました。
編集担当:山田さんのヨシ原では、ヨシは主にどんな用途に使われているのですか?
山田さん:
「よしず」としては、現在はほとんど取引がありません。
中国から安い「よしず」が入ってきましたからね。
今は、ほとんどのヨシは茅葺屋根に使っています。文化財や重要建造物の屋根の葺き替え、補修も多いですね。
あとは、「ヨシ紙」です。
祇園祭といえば「うちわ」ですけど、昨年、四条烏丸や烏丸御池で配られていた「うちわ」は、このヨシ原のヨシで作った紙が使われてたんですよ。
編集担当:中国産と国産の「よしず」はどのように違うのでしょうか?
山田さん:
国産のヨシは皮が薄いので、虫がつきにくいんです。繊維質も多くて弾力があるので、割れにくくて長持ちします。
また、中国の「よしず」は麻で編むのに対して、国産のはシュロ縄で編みます。
シュロ縄の方が耐久性が良いんです。
編集担当:ヨシ原の管理とは、具体的にどのようなことをするのですか?
山田さん:
2月にヨシを刈って、その後、残ったヨシを倒して3月に火入れをします。
火入れをしてヨシ原を焼くことで、虫や他の雑草をきれいに除去できるんです。
そうすると、次の年にまた健康で良いヨシが生えてくるんです。
ヨシ原は人間が手を入れてあげないと、荒れて藪になってしまいます。
ヨシ原の保全という意味では、ヨシ焼きは欠かせないんです。
編集担当:この広いヨシ原を焼くのは大変ですね。
山田さん:
はい。
実は、そのヨシ焼きなんですが、4年前に一度禁止されてしまったんです。
2010年3月に、ヨシ焼きの煙で国道が一時通行止めになってしまいました。
それが廃棄物処理法の野焼きに当たるということで、禁止されてしまったんですよ。
編集担当:ヨシ焼きができなければ、茅葺の資材が取れないということですね。
山田さんの会社にとっても、ヨシ原の維持という面でも大変なことですね!
山田さん:
そうなんです。
でも、伏見の自然や歴史を受け継ぐ活動をしている市民団体が、ヨシ原保全のためのヨシ焼きの重要性を訴える活動を起こしてくださいました。
そんな市民団体の方々と協力しあって、2年前に無事ヨシ焼きを新たにスタートさせることができました。
このヨシ原は、西日本一の「ツバメのねぐら」 でもあります。
毎年数万羽ものツバメがやってきて、大陸へ渡るために飛ぶ練習をする様子が見られるんですよ。
そんな野鳥の宝庫でもあるヨシ原の生態系維持のためにも、ヨシ焼きは欠かせません。
そんな訴えを受けて、市は、ヨシ焼きを「河川管理に必要な廃棄物の焼却」として認めてくださいました。
そして新たに「新生ヨシ焼き」をスタートすることができたのです。
編集担当:では、今年で「新生ヨシ焼き」3年目なんですね?ヨシ焼きはいつ頃行われるのですか?
山田さん:
今年は3/9~25日の間の5日間程度、午前5時半から午前10時ごろの間に行います。
風が強い日はヨシ焼きは行えません。また、燃え広がらないよう、夜露が降りて水分を適度に保った午前中に行います。
2010年のようになってしまったら、もう二度とヨシ焼きを行えなくなりますからね。
お話を伺った数日後、ヨシ焼きの現場を撮影するために、再びヨシ原を訪れました。
山田さんを含めた数人の職人さんたちが、火を入れては、都度消して回っておられました。
広いヨシ原を少しずつ、少しずつ、細心の注意を払って慎重に焼いている様子に、
長い間続けてきたヨシ原と人との関わりをずっと残していきたい、未来へ繋いでいきたいという山田さんの思いを感じました。
弊社のほんず製法や手摘みも山田さんの茅葺も同じ、時代とともに減少の一途をたどっています。
しかし、完全に途絶えさせてしまっては、再生するのは非常に難しいものです。
どうにか文化を維持し、未来へ繋いでいきたいですね。
今回お世話になった山城萱葺株式会社では、ヨシや茅葺について知ることのできる様々な情報発信やイベントを行っておられます。
詳しくは、山城萱葺株式会社ホームページまたはFacebookページをご覧ください。
http://www.yamashiro-kayabuki.co.jp
ひとびとvol.1 勤息義隆さん
2015年3月7日
コラム孫右ヱ門、第1回目は、孫右ヱ門に関わる人々をご紹介いたします。
毎回、編集担当が孫右ヱ門とお付き合いのある様々な人を訪れ、質問に答える形で、大いに語っていただきます。
様々な視点から見た孫右ヱ門、そして京都が見えてきます。
記念すべき一人目は…
勤息義隆さん( so design 代表 兼、浄土宗大恩寺 副住職)
Q1.勤息さんについて教えて下さい。
苗字は勤息で「ごんそく」と読みます。
フリーランスでWeb制作や紙媒体の制作等をしておりまして、
地元企業、団体などのお仕事をさせていただいております。
街のWeb屋さんといったところでしょうか。
また、同時に家が大恩寺という浄土宗のお寺でして、現在副住職も務めております。
Q2.孫右ヱ門との出会いと関わりについて教えて下さい。
京都の知人の集まりで初めて出会いまして、2011年に孫右ヱ門さん最初のwebサイトを制作しました。
立ち上げ以来ずっとお付き合いを続けさせてもらって、
昨年はwebサイトのリニューアル制作もさせていただきました。
Q3.孫右ヱ門の新しいサイト制作にあたって、大変だったことなどありますか?
パッケージデザインにせよ、トップページのムービーにせよ、携わってる方がみんなビッグネームばかりで…。
でも、とにかくそんな方々に負けないように、という思いが強かったです。
また、孫右ヱ門さんは、他のクライアントさんと違って、
信頼して任せきってくださるというか、自由にさせてもらえたので、
自分がやりたいことを全面に押し出せて、本当に楽しくお仕事させてもらいました。
だから、今回の仕事は、自分のweb制作者としての集大成だと思っています。
Q4.京都の良いところって何ですか?
文化とか伝統といった土台がしっかりしていて、
それが誰にでも認知されている、ブランド力の大きい土地なので、
商いにせよ、デザインにせよ、京都で「なにか」をしているというメリットは大きいですね。
京都ならではの業種の方々と関われるというのも、おもしろいところです。
抹茶の孫右ヱ門さんも、そのうちのひとつです。
Q5.今後やりたいことはありますか?個人的なことでも結構です。
私は僧侶ですので、仏教をより多くの人に伝える布教活動を積極的に行っていきたいです。
今は仏教といえば、葬式や法事といった時ぐらいしか触れる機会がありません。
でも、普段「いただきます」という時に手を合わせますよね?
そんなふうに、普段の暮らしの中に根付いている仏教的思考に気付いてもらえるような、そんな発信を、webの力を最大限に活用して伝えていけたらと思っています。
仏教は硬いものではないし、もっと若い人に響くような仏教を伝えていきたいです。
コラム孫右ヱ門はじまります
2015年3月5日
このコラム孫右ヱ門では、定期的に様々な記事を掲載していきます。
・四季折々の茶園や生産の風景、孫右ヱ門が所在する城陽や京都の歳時記
・孫右ヱ門に関わるひとびと
・お茶に纏わるモノや道具
この3つをテーマにこれからご紹介してまいります。
毎月第1週目と3週目に更新します。
お茶摘みのはじまる八十八夜(立春から数えて88日目の5月2日)頃からは、
もう少し頻度を上げて様々なご紹介をしていく予定です。
ここでしか知ることのできない、お茶や京都の背景にある「ものがたり」を、
ぜひお楽しみください。