コラム孫右ヱ門

お茶に纏わるモノ・コト・道具vol.3 「宇治篩(うじぶるい)」と「ぼて」


2015年6月17日

全国茶品評会に出品する仕上げとして、荒茶の選別をする「お茶選り(おちゃより)」の作業もようやく終わりを迎えました。

「お茶選り」は、ピンセットで、色や外観の悪い碾茶をひとつひとつ取り除いていく、気の遠くなるような作業です。

そのお茶選りをする前に、竹製の篩(ふるい)を使って、選別しにくい細かな碾茶をふるい落とす「とおし」と呼ばれる作業をします。

そこで使うのが「宇治篩(うじぶるい)」と「ぼて」です。

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直径約130cm、子どもがすっぽりと収まってしまうほどのこの大きな容器は何でしょう?

これは「ぼて」又は「ぼてこ」と呼ばれるものです。

「ぼて」は宇治篩でふるい落とした細かな葉を受ける受け皿として使います。
底面が六角形、縁が円形の竹で編んだ容器に渋紙を貼り合わせたものです。

「ぼて」は小豆を入れたり、米を入れたり、昔は農家でよく見られた生活道具のようですが、これほど大きな「ぼて」は、茶農家や茶問屋でしか見られないのではないでしょうか?

茶葉をふるう受け皿として使うため、茶葉が飛び散らないよう、このように大きな形をしているのです。

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「宇治篩(うじぶるい)」は縁が藤で編み込まれ、網目が竹でつくられた篩(ふるい)です。

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細かな茶葉をふるい落とすだけでなく、網面の上の茶葉を手のひらでこすり、砕いて均一な大きさ整えるためにも使います。

網面の竹ひごには、適度なしなりと強度を得るため、真竹や孟宗竹ではなく、淡竹(ハチク)が使われています。

写真をよくご覧ください。

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網目の竹ひごの角が面取りしてあるのが分かるでしょうか?
実は、この細い竹ひごは、ひとつひとつ台形に面取りしてあるのです。
台形に面取りされた竹の網は、茶葉への当たりが柔らかいので、粉になりにくく、きれいに茶葉を砕くことができます。
金網の篩だと粉が多くなり、仕上がりの茶の色は白くなってしまいます。

現在は金網の篩が使われたりもしますが、やはり品評会に良質な碾茶を出品するためには、この竹製の篩が不可欠です。

以前は、京都府綴喜郡井出町多賀に一人、伝統的な宇治篩を作る職人さんがいたのですが、現在は残念ながら、宇治篩づくりのできる職人さんは一人もいなくなっていまいました。

孫右ヱ門では、同じく茶業を営んでいた親類から譲り受けたものを使っていましたが、昨年京都の横山竹材店さんに相談し、新たに宇治篩を作っていただきました。

(動画は「とおし」の作業です)

孫右ヱ門では、このような昔ながらの道具を大切に使いながら、できる限り手作業にこだわり、手間暇かけて伝統の味を守っています。

職人の手づくりによる道具の入手や修理が困難にはなってきましたが、横山竹材店さんのように、若い世代が伝統を受け継ぎ、文化を残してくださるのは有難いことです。
道具や材料も手に入りにくい時代ですが、その時代に見合った創意工夫を凝らし、次の世代に新たな伝統を繋げていかなければなりませんね。

ラジオ「孫右ヱ門の抹茶カフェ」アーカイブで横山竹材店さんの回をご覧いただけます。

お茶に纏わるモノ・コト・道具vol.2  碾茶炉と焙炉(ほいろ)じまい


2015年6月5日

今年の茶摘みも無事終わり、「焙炉(ほいろ)じまい」を行いました。

焙炉(ほいろ)じまいとは、製茶用乾燥炉の火を落とすこと、つまり製茶の終わることを言います。

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製茶の終わった工場では、一年の役目を終えた機械や道具が、眠りに入ったようにしんと静まり返り、つい先日までの熱気が嘘のようです。

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レンガ造りのクラシックな佇まい、孫右ヱ門の工場の中で一際存在感のある機械、それが碾茶炉(製茶の乾燥炉)です。

高さは約4m、幅は約15mほどもあります。

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蒸した茶葉を風で吹き上げ、葉に付いた余分な蒸し露を除去しながら冷却したのち、この碾茶炉で乾燥します。

碾茶炉は茶葉を乾燥させるだけでなく、適度な加熱香気を生成し、香味の調和をとる役割もあります。

碾茶炉の中は、一般的に上下二つの乾燥室に分かれています。

上段、中段、下段に設置されたベルトコンベアに散布した茶葉が、約15mのトンネル状の室を通る間に乾燥するしくみです。

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クラシックなレンガ造りなのは、炉内が200℃を超える高温となるので、耐熱性を考慮したためです。またレンガにより保温性を高くするという目的もあります。

 

碾茶炉での乾燥工程では、乾燥の度合いによって、外観の色や、香り、味が変わってくるため、都度茶葉を手に取り、色や匂いを確かめ機械を調整します。

手応えなく柔らかい感触なら、乾燥不足のためコンベアの速度を調節し、乾燥時間を延ばします。

乾燥していても黒みや焦げ臭を感じるときは、反対に乾燥時間を短くします。

少しの気温や天気の変化で、仕上がりが変わってくるため、その都度五感を働かせ、微調整をしなければなりません。

この炉の調整には熟練の感を必要とします。

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碾茶炉の仕組みは、生産家によって様々です。

品評会を狙うような生産家では、理想の仕上がりになるよう、それぞれ独自に機械をカスタマイズしています。

そのため、全く同じ機械というのはないかもしれません。

孫右ヱ門の工場でも、毎年、製茶機械の職人さんに頼んで微調整をしてもらっています。

先代、先々代は製茶機械の職人さんとともに、碾茶製造に欠かせないマイコン型バーナー、自動投入機などの開発に関わり、茶業界に貢献をしてきました。

こうして、毎年質の高い碾茶が仕上がるのは、先人たちの知恵と丁寧なモノづくりの心が詰まっているからです。

孫右ヱ門の碾茶炉は、今年も休むことなく、約1ヶ月間フル回転で頑張ってくれました。

本年のお役はこれで終わりましたが、先の時代も質の高い碾茶を作り続けるため、知恵を注ぎ、これからも大切にしていきたいです。