コラム孫右ヱ門

歳時記vol.4 城陽茶まつり


2015年9月30日

秋分の日も過ぎ、朝夕の冷たい空気に秋の訪れを感じる季節となりました。

初夏に摘んだ茶は、一定の温度と湿度に保たれた場所で夏を越え、秋が深まるとともに熟成されてその味を深めます。
長期保存・熟成することによって、お茶の味や香りに丸みが出て、まろやかでコクのある深い味わいが楽しめるのです。

お茶が美味しさを増すこの時期、孫右ヱ門が所在する城陽では、盛大な「城陽茶まつり」が行なわれます。

城陽茶まつりは、まず「口切の儀」からはじまります。
「口切の儀」は、伝統あるお茶の儀式のひとつで、初夏に摘んだ新茶を詰めた茶壺の口封を切って、茶葉を取り出し、茶臼で碾いて粉末にして、お点前を披露し、神殿に献茶を行うというものです。
茶祭り神饌

口切りは、待ち望んだ新物の茶との出会い、当年初のお茶をいただける喜びの瞬間でもありますので、「茶人の正月」とも言われ、特別なものなのです。

城陽茶まつりは今年で27回目ですが、茶生産家と茶業青年団の団員が毎年交代で「口切の儀」を執り行っています。

茶まつり口切り
茶祭りお点前

孫右ヱ門六代目も過去2回、この口切の儀で茶壺の封を切る大役をさせていただきました。
大勢の方が見守る中、封を切るのはとても緊張するものです。
茶壺の蓋は和紙で封をしてあるのですが、過去幾重にも和紙が貼られいたのか、堅くてなかなか刃が入らず、冷や汗をかいた経験もあります。

口切りの儀が終わると、茶壺は口緒(くちお)と呼ばれる朱色の絹紐できれいに結び飾られます。

茶まつり茶壺

城陽茶まつりでは、この厳かな口切りの儀を間近で見ることができます。

会場は、京都府城陽市富野にあります荒見神社。

茶祭り荒見神社

荒見神社は平安時代中期に編纂された「延喜式」の神名帳にも記載されている名社です。
木津川の洪水から守る水神で、われわれ茶農家にとって大切な神様が祀られています。
本殿は重要文化財で唐獅子や若葉の彫刻など桃山時代の特色がみられる美しい神社です。

口切りの儀の後、お点前の披露がなされ、その後境内では、茶席や茶そば、生菓子、城陽産のお茶の販売、お茶の美味しい淹れ方教室、邦楽演奏など楽しい催しが行われます。

茶まつり邦楽
茶そば

編集担当オススメは、城陽茶まつり限定「茶きんとん」です。
茶きんとん

城陽では、約30戸の農家が、年間約30トンの碾茶を生産しています。
弊社を含め様々な賞を受賞した農家も多く、城陽の碾茶は味・香り・色、全てにおいて優れていると言われています。
そんな城陽産の抹茶をふんだんに使って作られた「茶きんとん」は着色料など一切使わないのにとても鮮やかな色をしています。そして濃茶のような濃厚な味がします。
茶祭り茶まんじゅう

城陽茶まつり限定販売ですので、ぜひこの機会に足を運んでください。

<城陽茶まつり>
日時:  10月18日(日)
9:00~  口切りの儀
10:00~15:00 抹茶席、茶そば席(いずれも有料)、お茶のおいしい入れ方教室、各種茶の展示販売、
茶そば、茶うどん、茶を使用した生菓子、お菓子の販売
場所:  荒見神社(JR奈良線 長池駅徒歩10分)京都府城陽市富野荒見田165

歳時記vol.3 中秋の名月と月見の茶会


2015年9月16日

9月も半ばに入り、暑さが和らいで随分過ごしやすくなりましたね。
9月といえば、中秋の名月。
お月見の季節です。
フルムーン
旧暦の秋は7月、8月、9月ですから、中秋とは秋の真ん中、旧暦8月15日のことを指します。

現在の暦では、今年の中秋の名月は9月27日になります。
翌日の9月28日はスーパームーンで、今年一番地球へ接近する満月ですから、今年は例年よりも大きな中秋の名月が見られるようですよ。

日本では、「月を愛でる」風習は縄文時代ごろからあったといわれています。
日本神話や古事記に月夜見命(ツクヨミミコト)が登場しますように、太陽と並んで月は神聖なものと考えられてきたようです。
ススキ野原後に中国の仲秋節が伝わり、平安貴族の間で、月を愛でながら詩歌や管絃を楽しむ月見の宴が催されるようになりました。
平安貴族たちは、直接月を見ることをせず、池や杯に映る月を見て宴を愉しんだそうです。
水面の月なんとも優雅ですね。

茶道の世界では、「みたて」という月見の愉しみ方があります。
主人はお軸が持つストーリー、水差しや茶碗の形や色、道具の持つ意味、そういったものすべてを「お月さま」をテーマに合わせて設えます。
客人は実際に月が見えなくても、心の豊かさや五感で茶室に月を感じます。
それが「みたて」、日本人独特の美意識ですね。

さて、この季節、京都では平安時代より受け継がれた様々な観月の祭が現在も各所で行われています。
ここ京都山城地方でも、宇治の黄檗山萬福寺で「月見の煎茶会」が行なわれます。
OLYMPUS DIGITAL CAMERA萬福寺は中国・明出身の高僧、隠元(いんげん)が建立した禅宗寺院です。
隠元和尚建物や仏像、儀式や精進料理に至るまですべてが中国風で、異国情緒溢れるお寺です。
OLYMPUS DIGITAL CAMERA

萬福寺は、煎茶に大変縁の深いお寺でもあります。
隠元禅師の渡来に伴い、当時中国文人の間に流行していた煎茶の風習が伝えられました。
そのことから、境内には「有声軒」という煎茶風茶席と庭園、全日本煎茶道連盟の本部があります。
煎茶道灯篭にも「煎茶道」の文字が見えますよ。

境内の「売茶堂」には煎茶道の祖、高遊外売茶翁(まいさおう)(1675−1763)が祀られています。
OLYMPUS DIGITAL CAMERA売茶翁(まいさおう)は、上流階級の文化だった喫茶の風習を庶民にまで広め、その煎茶趣味を一つの世界を形成する煎茶道にまで導きました。
また、鴨川のほとりに日本初の喫茶店といわれる「通仙堂」という茶店を構え、時に自ら茶道具を担いで禅を説きながら、茶を煎じて各地に売り歩いたと言われています。

そんな煎茶の聖地、萬福寺で「月見の煎茶会」が行なわれます。

瑞芽庵流
黄檗売茶流
美風流
雲井流
小笠原流
方円流
二條流
一茶庵流
8つの流派がそれぞれ月見やお寺にちなんだお席を設えます。

萬福寺は蓮の花でも有名ですので、なんと蓮の花に煎茶を注いだお茶が出されたこともあるそうですよ。
ハス茶
「月見の煎茶会」は、お煎茶の作法を知らなくても誰でも気軽に参加できます。
異国情緒溢れるお寺での珍しい煎茶のお茶席に、足を運んでみるのはいかがでしょうか?

日 時 2015年10月3日(土) 14時30分~19時 雨天決行
会 場  黄檗山萬福寺
茶 券  3,500円 (入山料込・入席券3枚)
お申込や詳細については全日本煎茶道連盟のHPをご覧ください。http://www.senchado.com

実際に月を愛でるも良し、「みたて」を愉しむも良し。
秋の夜長、皆様はどのようなお月見を愉しまれるでしょうか?
今年の中秋の名月、素敵なお月見様が見られますように。

お茶に纏わるモノ・コト・道具vol.5 茶臼(茶磨)


2015年9月4日

今回は抹茶の製造には欠かせない茶臼(茶磨)のお話です。

茶臼の材質は硬くキメの細かい花崗岩が使用されています。
古くは、宇治朝日山の花崗岩が最良とされていたようです。

茶臼には手挽き臼と、機械で回す機械臼があります。
手回し挽き茶
画像は、弊社の蔵から出てきた手挽きの茶臼です。
随分劣化していて、持ち手が外れそうなので紐で括ってあるような状態です。
現在は、機械臼で碾茶を挽いています。
機械臼

茶臼は上臼、下臼ともに8つの区画に、各10〜15本程度の溝(目)が切られています。
この両面を合わせて上臼を左回り(反時計回り)に回転させると、上下臼の目が45度の角度で交差し、多数のハサミで切られるように茶葉が粉砕される仕組みになっています。
上臼下臼
粉砕中の茶葉は、中心から上臼回転方向に移動しながら外側に向かって広がっていきます。
碾茶を挽いた後の上下臼の面を見れば、内側から外側に向かって粉が移動していることがよく分かります。
上臼面抹茶
茶用の石臼が他の石臼と違うのは、周縁部約5mmの幅には溝(目)がないことです。
この溝を切っていない部分を「外周平滑面(がいしゅうへいかつめん)」といって、最後にここで抹茶独特の細かい粉状に粉砕されるのです。
外周平滑面

現在、日本茶業中央会は、抹茶の定義を「覆い下で栽培された生葉を揉まないで乾燥した碾茶を茶臼で挽いて微粉状に製造したもの」と定めています。

しかし、なぜ抹茶は茶臼で挽かなければならないのでしょうか?
碾茶を粉末状にするのなら、ミキサーやミルではダメなのでしょうか?

抹茶の粒子の大きさは、だいたい粒径10μ(ミクロン)前後です。(1μ=1/1000mm)
目安として、食塩が約400μ(ミクロン)、小麦が50~150μ(ミクロン)、片栗粉が20~70μ(ミクロン)なので、抹茶の粉がいかに細かいかお分かりいただけると思います。

人間の舌は、粉の粒径が30μ(ミクロン)以上になると「ざらつき」を感じるといいます。
抹茶の粒径は10μ(ミクロン)前後ですから、口に含んだ時、ざらつきを覚えることのない、まろやかさを感じることができるのです。
パウダー
ミキサーやミルなど高速回転させて茶葉を粉砕することもできますが、茶葉の回転方向を揃えることができないので、どうしても粒の大きさが揃いません。

粒の大きさにムラがあると、抹茶特有のなめらかな口当たりや、抹茶を点てた時のクリーミーな泡を出すことができないのです。
クリーミー1

また、ミキサーやミルはどうしても熱を帯びます。
ミキサーやミルのように、高速回転により急激に熱が加わると、抹茶の色や香り、風味が損なわれてしまいます。

茶臼でも摩擦熱は発生するのですが、石でゆっくり挽くため、粉砕時の温度が上昇しにくいという利点があります。

室温20度で、開始から1時間経過してようやく臼の外周部の温度は50度近くになります。
この緩やかな加熱が抹茶特有の芳香を生成します。

香りを比べてみると、挽く前の碾茶と、挽いた後の抹茶では香りが違うことに気づいていただけると思います。
挽き抹茶

近年、茶臼に代わって、粒子をより細かくすることのできる「ジェットミル」が使われるようになりました。

金属容器に碾茶を入れ、外側から空気による噴射圧を加えることで中の茶葉を激しく動かします。
そうすることで、茶葉どうしが衝突を繰り返し、数ミクロンレベルの微粒子にまで細かくなるという機械です。

この「ジェットミル」は、容器内を舞う茶葉の回転方向を一定にすることも可能で、粉末の形や粒の大きさを均一にできるという優れものです。

標準的な茶臼1基で碾ける抹茶は、1時間回転させて僅か40g前後なのに対し、ジェットミルは効率的に多量の抹茶を生産することができます。

ちなみに手挽きの茶臼で40gの抹茶を挽こうと思うと、優に5時間はかかるでしょう。
筋肉痛になること間違いなしですね。

ジェットミルで挽いた粒子の細かい抹茶を点てて飲んでみると、味はおいしいけれど、抹茶特有の膨よかな質感がなく、シャバシャバした感じがします。
抹茶を飲み慣れた方なら、物足りなさを感じるかもしれませんね。
クリーミー2

いかに文明が発展しようとも、未だ茶臼に勝るものはないのです。

孫右ヱ門では、秋の深まる頃、手挽きの茶臼による挽き茶体験をしていただけるようなイベントを企画中です。
Facebook等でお知らせしますので、ぜひご参加下さい。
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