コラム孫右ヱ門

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お茶に纏わるモノ・コト・道具vol.6 茶筅(ちゃせん)


2015年11月21日

棗や茶杓がなくても、茶筅と茶碗、それにお湯さえあれば抹茶が点てられます。
しかし、茶筅がなくては美味しい抹茶は点てられません。

今回はそんな抹茶を点てる必需品「茶筅」のお話です。

国産の茶筅生産のおよそ90%を占める、奈良県生駒市の北端にある高山町。
茶筅のことを知るため、高山町にある高山竹林園を訪れてみました。
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高山竹林園
約50種の標本竹からなる竹林園と、地場産業である茶筅や茶道具、その他竹製品に関する資料館がある施設です。

それではまず、茶筅の歴史について探っていきましょう。

世界で初めて茶筅がつくられたのは、室町中期のこと。

その頃、高山は鷹山村と呼ばれ、鷹山氏が支配する1万8千石の村でした。

この鷹山城主の次男、宗砌(そうぜい)は、連歌や和歌を通して、侘び茶(茶の湯)の創設者として有名な村田珠光と親しい間柄であったそうです。

珠光が初めて茶の葉を粉末にして飲む茶道を考案した時、なんとか茶をかき混ぜる道具はないものかと、鷹山の宗砌(そうぜい)に道具の制作を依頼しました。
宗砌(そうぜい)は、苦心を重ねて茶筅を作り上げました。

これが茶筅の始まりです。

茶筅ができるまでは、さじ(スプーン)で混ぜていたそうですよ。

宗砌(そうぜい)が製作した茶筅は、ときの御土御門天皇に献上され、天皇は、その繊細な作りと着想に感動し、「高穂(たかほ)」の御銘を授けたということです。
これを機に宗砌(そうぜい)は、茶筅づくりに力を入れ、その製法を鷹山家の秘伝としました。

その後、御銘「高穂茶筅」は有名となり、高穂にちなんで地名を高山と改めました。

高山城がなき後も、茶筅づくりを許された家臣16名により、秘伝の製法は固く守られ、「一子相伝の技」として500年もの間、その技術は受け継がれていきました。

時が流れて昭和に入っても、秘伝は固く守られてきましたが、戦時を迎え、人不足により、この伝承は崩れ、秘伝とされてきた技術も一般に公開されるようになったそうです。

現在、高山では、茶筌をつくる職人は20軒ほど。
茶筅は機械でつくることができず、現在でもその工程は全て手作業で、小刀等を用いて行います。

実際に作業工程を見せていただいたのでご紹介します。

1、原竹(げんちく)、コロ切り
竹内部の水分が最も少なくなる冬、生えてから2、3年の竹を切り出し、煮沸して油や垢を除きます。
その後、最も寒さが厳しくなる1月頃から約1ヶ月間、天日に晒します。
OLYMPUS DIGITAL CAMERA竹が白くなると取り入れ、その後2~3年ほど熟成させてようやく茶筅の材料となります。
この竹を節を挟むように切り、円筒形の「コロ」にします。

使われる竹の種類としては、淡竹(白竹)、青竹、黒竹、煤竹(すすだけ)の4種類のみ。
煤竹は表千家が主に使用しますが、古民家の屋根に使用されて自然に煤がついたものを使うそうで、年々入手困難になってきています。
OLYMPUS DIGITAL CAMERA写真左の竹は雲紋竹(うんもんちく)といって、雲の様な模様がもともと入った種類の竹で、今回作業を見せてくださった谷村丹後さんオリジナルのものです。

2.皮むき、大割り(おおわり)、片木(へぎ)
節の上半分くらいから先端にかけて、一番外側の表皮だけを薄く削ります。(皮むき)OLYMPUS DIGITAL CAMERA
大割包丁で竹を等分に割っていきます。
割方は竹の太さや、作る穂数によって12~24等分にします。(大割り)OLYMPUS DIGITAL CAMERA
これを1片ずつ外側にこじ開けます。
茶筅の抹茶を混ぜる部分は表皮だけを使うので、小刀で皮と身に分け、身を取り除いていきます。(片木)
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3.小割り(こわり)
大割り(おおわり)で分割した一片一片を、さらに大小交互の大きさに割っていきます。
大小のはおよそ6:4の太さの比率になっています。
大きい方は茶筅の外穂、小さい方は内穂になります。
OLYMPUS DIGITAL CAMERAOLYMPUS DIGITAL CAMERA実演では、台にカミソリの刃をつけた道具を使われていましたが、道具は職人によってまちまちで、この日の職人さんは、もっと原始的な方法で割っていますとのこと。
その方法は、やはり秘伝なのだそうです。

4.味削り(あじけずり)
穂先の部分を湯に浸し、穂の内側を根元から先になるほど細くなるように削ります。
適当な薄さに削れたら、次は内側に丸くなるようにしごいて形をつけます。
削り方は茶筅のたちによって違い、この味削りによってお茶の味が変わると言われるほど、最も神経を使う難しい工程なのだそうです。
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5.面取り
削り上がった茶筅の外穂になる両角を薄く削って面取りします。
角を取るのは、抹茶を点てる時、お茶が付着しにくいようにするためです。
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6.下編み、上編み
面取りした外穂をおりあげ、糸で編んでいきます。下編みで穂を広げ、上編みで穂の根元がしっかりするよう固定します。
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面取りや下編み、上編みの作業は代々女の人の仕事とされてきたそうです。
この日は、秋の紅葉にちなんで、オレンジと黄色の糸で編まれていました。
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クリスマスには赤と緑の編み糸、海外からは国旗の色でといった注文も入るそうです。
色紐の茶筅は、正式なお茶会では使えませんが、自宅でお茶を愉しむときには、この様な可愛いマイ茶筅があると嬉しいですね。

7.腰並べ(こしならべ)
内穂を中心へ向かって寄せて組み合わせ、茶筅の大きさを決め、根元の高さと間隔を揃えます。

8.仕立て
穂先の乱れを直し、形を整え、穂先までの高さ、間隔を均等に整えます。
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海外製の安価な茶筅がたくさん手に入る時代になりましたが、形だけ真似して作っても、仕上がりには雲泥の差があると職人さんは言います。
「私たちはそれぞれ手に取った竹の性質を把握した上で、一本ずつ、ほとんど小刀と指先だけを使って作ります。海外のはヤスリで削ってあるから、穂先に細かい傷が残って折れやすいんです。それにそれぞれの竹の性質も見ていない。」

材料となる竹ひとつとっても、切り出す段階から厳選し、良い仕事ができる材料になるまでに何年もの歳月をかけて仕込んで行きます。
そして、流れ作業で大量に作るのと、一本一本竹の加減を見て、お茶を点てる人を想いながら丹念に仕上げるのでは全く違います。

茶筅はその用途から消耗品に扱われがちですが、こうして手作業により丁寧につくられた茶筅は、穂先一本一本、先の先まで神経が行き届いて、繊細でため息が出るほど美しい形の芸術作品と言えます。
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最後に、お庭を眺めながら、高山茶筅でお茶を一服いただきました。
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自前の茶筅より泡が随分とキメ細かい。
実際に使ってみて、その違いに驚きました。
ブレンダーでも抹茶は点てられますが、茶碗を傷めてしまいます。
柔らかくしなる竹という材質は、茶碗を傷めないという意味でも、大変理に適っているのです。
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お茶を愉しむ時間をより豊かなものにするためにも、美しい高山茶筅をマイ茶筅にいかがでしょうか?

茶園の四季vol.1 お茶の花


2015年11月6日

今回は「茶園の四季」
秋の茶園の様子をご紹介します。

「お茶の花」をご存知ですか?
お茶の花と言っても、お茶席に飾る花のことではありません。
茶の樹に咲く花のことです。

茶園というと、青々とした葉っぱが広がる様子を思い浮かべますが、秋の茶園をよくよく見てみると、ぽつりぽつりと下を向いて咲く小さな白い花を見つけることができます。
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つぼみは毬のようにぽってりと丸いかたち。
花は透明感をたたえた白い可憐な花びらと、中央に黄色い「しべ」が冠のように広がっています。
お茶はツバキ科の植物ですので、花は白ツバキに似ていますが、随分と小ぶりで、葉裏に隠れるように控えめに咲きます。
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香りもとてもほのかなもので、鼻を近づけるとほんのり石鹸のような香りがします。
お茶の花にはサポニンという成分が含まれていて、サポニンは泡立つ性質を持っています。
だから石鹸のような香りがするのでしょうか?

姿も香りも控えめで、奥ゆかしい純白の花。
なんとも日本的な美しさを持つ花です。

しかし、この可愛らしいお茶の花、実は生産家にとっては少々厄介なものなのです。
秋から冬にかけては、来年良い葉をつけるために木が栄養分をしっかりと蓄える大切な時期です。
ですから、花に栄養分を取られては困るのです。
悪天候が続くと花がたくさん咲く傾向にありますが、花がたくさん咲いていると、その茶樹は弱っているということなのです。

花が咲くということは、もちろん実ができ、種もできます。
これがお茶の実です。
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この実がはじけて、中から3つほど種が出てきます。
この時期、茶畑を歩いていると、地面に茶色い種が落ちています。
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種の寿命は短く、時間が経てば経つほど芽が出にくくなりますが、孫右ヱ門の茶畑では、種を集めて植えることはなく、そのまま放置しておきます。

茶の花は自家受粉をせず、花に寄ってくる蜂や様々な虫によって自然交配して実をつけます。
そうして自然交配によってできた種は、親樹の性質を受け継ぐことはほとんどなく、他の茶樹の性質が入り混じった雑種となります。
そんな種から出てきた芽は、かなり個体差があり、品質もバラバラになってしまいます。

昔、茶樹の繁殖には種をまいていたそうですが、現在では、健康な親樹の小枝をカットして育苗する「挿し木」による繁殖が一般的です。
挿し木ですから、親樹のDNAをそのまま引き継いだ茶樹が育ちます。
すべてが親樹のクローンですので、品質が一定に保たれるのです。

先日行った「口切りの儀」では茶農家らしく、茶の花を床に飾りました。
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花器は陶芸家、瀬津純司さんの作品です。

なかなか目にすることのないお茶の花ですが、近くに茶畑がある方は、ぜひ足をとめて、可憐なお茶の花を探してみてくださいね。