コラム孫右ヱ門

歳時記vol.6 「お正月のお茶」のお話


2016年1月15日

2016年最初の記事は「お正月のお茶」についてのお話です。

おせちやお雑煮などお正月定番の食べ物がありますが、お茶にもお正月ならではのお茶があるのをご存知でしょうか?

それは「大福茶(おおぶくちゃ)」です。
京都を主とする関西で、お正月に新年の喜びと、その年の無病息災を祈って飲むお祝いのお茶で、梅干しと結び昆布にお茶を注いだものです。
注ぐお茶は煎茶や玄米茶など、お茶屋さんや家々によって様々です。
大福茶

大福茶のはじまりは、平安時代。
村上天皇が在位していた960年ごろのこと。
当時、京の都では疫病が流行していました。

そこで六波羅蜜寺(京都)の空也上人は、十一面観音を彫って車に乗せて市中を引き周り、祇園の南林に釜を掛け、茶葉を煎じて、八葉の蓮華にかたどった八つ割の茶筅で振り立て、中に梅干しと昆布を入れたものを仏前に供えて、病人にのませたところ、たちまち全快し、疫病も治まったと言われています。

その後、村上天皇がその徳にあやかって、毎年正月三ヶ日にこのお茶を飲むようになったことから、皇(王)服茶(天皇が飲むお茶)と言われるようになりました。

皇(王)服茶は、厄除け、幸福を招くという意味から「大福」の字が当てられ、以来正月の行事として庶民の間にも広まりました。現在でも、京都の六波羅蜜寺でが正月三ヶ日に大福茶が振舞われています。
お正月に京都を訪れる機会があれば、足を運んでみてはいかがでしょうか?

茶道の家元では、元日の朝に大福茶で祝うのがしきたりとなっているようです。
裏千家では、元日の朝、虎の刻(午前4時)に、当主が汲み上げた若水を沸かして、千利休居士の木像にお茶をお供えするのだそうです。
その後、家元のお点前で家族一同が濃茶を回し飲みし、この時お菓子の代わりに梅干しと昆布を食べるのだそうです。
この行事は、家元の家族や業躰(内弟子)先生のみ許されたもので、一般には目にすることができない行事です。

お正月のお茶といえば、もうひとつ、茶道の「初釜」があります。
「初釜」は新年最初に行うお茶会で、正月中旬ごろまでに催されます。
初釜は年の初めを寿ぐ意味で催すものですので、道具やしつらえ、お菓子や懐石も干支にちなんだものや、お正月らしいもの、めでたいもので揃えます。
初釜飾り
申の干菓子
懐石香の物 のコピー
例えば、初釜には必ず床の間か席の楊枝柱にある柳掛釘へ青竹の花入を掛け、枝を中間で結んで輪にして、残りは長く床に垂らします。
そして、「蓬莱山飾り」といって三宝に鏡餅のように炭を飾ります。
茶人にとって「炭」はとても大切なものですから、一年の茶の湯成就を願って特別な飾りが施されます。
蓬莱山飾
飾り方は様々で、写真は略の飾りですが、
正式には三宝に載せた奉書に裏白とゆずり葉を四方に敷き、洗い米を敷き詰め、奉書で巻いた炭の上に昆布、長熨斗を添え、上に橙、前に伊勢海老をもたせかけるといったような何とも豪華なものです。

そして、一年の最初の茶道という意味で、新鮮な「青竹」の道具を使います。
茶筅も、蓋置、花入も、懐石に使う箸も、すべて瑞々しい青竹を使います。
懐石香の物

昨今は三ヶ日でも色々なお店が開いていたりと、なかなかお正月らしい雰囲気を味わえず、一年の始まりを実感することも薄れてきたように思います。
しかし茶道は季節の恵みに感謝し、季節の移り変わりをとても大切にする文化ですので、初釜ではこれぞ「日本のお正月」を体験できるのではないでしょうか。
編集担当も一度体験したいものです。

コラム孫右ヱ門は、今年もお茶にまつわる様々なことや、孫右ヱ門に関わる様々な人についての記事をお届けしていきたいと思います。
本年もどうぞ宜しくお願いします。

<写真協力>YUI