コラム孫右ヱ門

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お茶にまつわるモノ・コト・道具vol.12 食べる抹茶と飲む抹茶


2016年8月6日

昨年は戦後70年ということで、私たちが生産する抹茶にも戦争の足跡が何かあるのではないかと、様々な資料を調べ「宇治茶と太平洋戦争」というタイトルでお話をしました。
多くの資料に目を通していく中で、とりわけ印象に残ったのが軍用サプリメントとしてつくられた「固形抹茶」や「抹茶錠」の存在でした。

戦時中、お茶は「ぜいたく品」として統制され、燃料の配給停止、製茶の禁止を命ぜられました。
働き手のほとんどを兵隊に取られ、茶畑は芋や穀物類など食糧生産用に転作を余儀なくされ、茶業界は壊滅的な状態に陥りました。
なんとか茶業界が生き残るために、茶業研究所は抹茶が持つ強いカフェインの覚醒作用と、ビタミンCを軍部に力説し、軍用のサプリメントとして「固形抹茶」や「抹茶錠」というものがつくられ、兵隊に支給されました。
当初苦かった抹茶錠を食べやすくするため、茶業研究所は甘味料を添加し、「糖衣抹茶錠」を開発し軍に収めました。
これが飲むのではなく食べる抹茶、抹茶加工品のルーツではないかと言われている、そんなお話をしました。
20160807-plane-985111_960_720今や、抹茶の加工品は数多く市場に出回っています。
チョコレート、アイスクリームなどの抹茶スイーツに始まり、茶そば等幅広く食べる抹茶を目にすることができます。
抹茶ラーメンなんていうのもあるようですが、お味のほどはいかがなのでしょうか・・・。
ちょっと手を出すには勇気が要りますね。
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茶そばコーヒーや紅茶といった洋風の嗜好品が生活の中に定着したことで、急須で淹れて飲む煎茶の生産が減少の一途を辿っています。
その一方、抹茶の原料となる碾茶の生産量は、ここ10年で倍増しています。
抹茶を飲む人が増えたわけではありません。
「抹茶スイーツ」などの加工品やペットボトル飲料に入れる抹茶の市場が急増したからなのです。

最近ではペットボトル飲料にも抹茶や碾茶が添加されることが多くなりました。
抹茶や碾茶を加えることで、旨味や色の鮮やかさが増すのだそうです。
京都府南部で煎茶の生産が中心だった地域でも、碾茶に転換する茶農家が続出しています。

茶道の経験がない、抹茶を飲む習慣がない、そんな現代社会において、碾茶の需要が伸びることは、茶業が生き残っていくためには大変嬉しいことです。
抹茶錠も、抹茶スイーツも、茶業存続のため先人が苦労の末につくってくださった道であり、その道なくして碾茶を作り続けることはできなかったと大変感謝しています。

しかし、その反面、筆者はお茶本来の大切な役割が忘れ去られてはいけないと思うのです。
抹茶本来の役割は、茶道を通した日本人にとって最も大切な「和」の精神や「おもてなし」の文化を伝えることです。
20141220-IMG_0061「和敬清寂」とは、千利休が茶道の精神をひとことで言い表した言葉で、茶道の基本になる大切な精神です。
茶道ではとりわけ「和」が中心であり、「和」とは皆が平等で、区別、差別がないということです。

小さなにじり口で刀を外させ、信長や秀吉といった天下人をも無にさせた一杯の抹茶。
裏千家15代、千玄室さんのお話でも、無礼千万にも御所や二条城に軽飛行機を離着陸させ、ジープで辺りを走り回っていた進駐軍が茶室「今日庵」の中では、正座をし、頭を深々と下げ、一杯の抹茶を味わっていたというではありませんか。
20141019-IMG_9003昨年のコラムでもお話しましたが、お茶には忘れてはならない日本の心、文化があります。
茶道では、亭主と客が互いに自己を慎み、身分や国籍の違いに関係なく互いを敬い、思いやり、和して互いに抹茶やその空間を共有することを愉しみます。
これが忘れてはならない茶文化の真髄だと思うのです。

昨日は日本人にとって忘れられない大切な日でした。
世界を見れば、未だ争いや戦争が絶えません。
自分さえよければ、今さえよければという思いは、奪い合いや争いや、悲しい出来事を生み出します。
また戦争のような大きな出来事だけではなく、人と人との繋がりを弱め、家族や友人との絆さえ危うくさせてしまいます。
世界平和などと大きなことは言えませんが、「和」の心をもって、せめて家族や近しい人、手元の平和を守っていきたいものです。

戦後70年の決意は、「自分たちの利益を求めるだけでなく、人に喜んでいただけるような美味しい抹茶を、手間を惜しまず作り続けること」でした。
20150324-IMG_3069今年は戦後70年と1年。
もう一歩進んで、抹茶が持つ「和」の文化を伝えていけたらと考えています。
茶道は所作や型が堅苦しく思われ、敷居が高いと敬遠されてしまいがちです。
集う人が、和や礼儀を重んじながらも、もっと自由闊達に話したり、心地よく、自然に笑みがこぼれるような、そんな和やかなお茶会をしてみたいと思っています。
その中心にはもちろん、美味しいと喜んでもらえる抹茶があります。

まずは、自分の手元を大切にすることから、戦後70年と一歩を踏み出したいと思っています。
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