コラム孫右ヱ門


2018年12月31日

年の瀬にこんなニュースが耳に入ってきました。
静岡県で大型てん茶炉を30基建設中、と。
また、掛川では、碾茶の殺菌から粉砕、袋詰めをする充填作業など一連の流れを一つの工場で行う一貫生産体制を整えた抹茶専用工場が新設されたとのことです。
その工場では年間32トンあった生産量が、今後約3倍の100トンにもなるといいます。

碾茶炉の建設増とともに、「直掛け」での碾茶栽培も増えています。
碾茶の栽培では伝統的に、茶棚を組んで茶園全体を囲み、茶園全体をすっぽり覆う「棚掛け」が行われてきました。
弊社はこの棚掛けに加え、さらに寒冷紗(化学繊維の黒い布)ではなくよしずとわらで被覆する「ほんず栽培」を行なっています。
一方、「直掛け」はお茶の木の上に直接寒冷紗(黒い布)をかぶせて遮光して栽培するという方法です。
「直掛け」の方が「棚掛け」より手間が少ないので、生産量も上がるというわけです。

海外では空前の抹茶ブームです。
以前は価格の問題から、中国製の安価な抹茶が世界のシェアを占めていましたが、近年では日本産の抹茶とコスト面で価格差が小さくなったことと、海外でも本物思考が高まったために、日本製を買い求める人が急増しているのです。
この空前の海外での抹茶ブームに対応するため、静岡での碾茶炉の建設ラッシュが起きているのです。

しかし、果たして海外で流通する抹茶が、本物志向の方々にマッチするものなのかどうか…

孫右ヱ門でも今年は商社や、海外輸出支援を行う方々にお話を聞く機会が今年はたくさんありました。
世界で抹茶を求める声が多くあることを実感しました。
しかし海外輸出には非常に多くのコストがかかります。
越境ECに掲載するにも商社に卸すにも、販売手数料の負担はとても大きいものです。
それを思うと、現在海外で流通している抹茶がクオリティーの低いものとなるのは必然です。
利益を確保する為には、抹茶の品質を落とすしかない、それが現在海外で流通している抹茶の現実です。

大規模な抹茶工場での生産が進むと、低価格抹茶の生産量は一気に増えます。
本来の伝統的な碾茶の製造技術を持たない方々が生産する抹茶が大きなシェアを占めて、一般的な存在になっていくでしょう。

現在の抹茶の定義は、日本茶業中央会で「覆い下で栽培された生葉を揉まないで乾燥した碾茶を茶臼で挽いて微粉状に製造したもの」と定められています。
しかし大量生産された低価格の抹茶が大きなシェアを占めるようになると、この抹茶の定義はさらに緩いものに代わっていくでしょう。

今後抹茶の流れが大きく転換する中でも、孫右ヱ門では変わらず伝統製法で手間暇かけて作った本物を伝え続けます。
6年前、初めて「ほんず抹茶」に出会い、感動のあまり孫右ヱ門の仕事を手伝わせてほしいと代表の太田に迫ったことを今思い返しています。

安価な抹茶が悪いとは言いません。
普段抹茶を飲まない方にもデイリーに取り入れてもらいやすくなるといった良い点もあります。

しかし私は本物の味を知ることは、自分の舌の物差しを確立することでもあると思うのです。
本物を知ることは、品質の良し悪しを決めるバロメーターになります。
抹茶風の飲み物ではなく、本来の抹茶の味も知って頂きたいと思うのです。
しかしいくら本物、本物と発信すれど、抹茶の味は、飲んでいただかないと伝わるものではありません。
来年は多くの方に、孫右ヱ門の抹茶を飲んでいただけるように、各地を行脚できればと考えております。

今年も多くのご縁を頂戴し、皆様にお世話になりながら無事一年を終えることができました。
本当にありがとうございました。
来年もどうぞよろしくお願いいたします。

編集担当:おまみ