コラム孫右ヱ門

ひとびとvol.2 茶摘み師 太田淑子


2015年4月16日

コラム孫右ヱ門テーマ、今回は孫右ヱ門に関わる人々です。
編集担当が孫右ヱ門と関わりのある様々な人々を訪れ、大いに語ってもらいます。

今回は、六代目孫右ヱ門の母であり、茶摘み師の太田淑子をご紹介します。
茶農家の嫁として、また茶摘み師として、その人生を語ってもらいました。

太田淑子(孫右ヱ門 茶摘み師)

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会う度「いつもご苦労さんでございます」と腰低く、笑顔で出迎えてくれる「孫右ヱ門のおかみさん」こと太田淑子さん。

今日も約束の時間に茶畑に行くと、いつもと変わらない笑顔で、頭を深々と下げ「ご苦労さんでございます」と出迎えてくれました。

 
太田淑子は京都市大原野の善峰寺近く、水稲とたけのこの農家に生まれました。
昭和42年、五代目孫右ヱ門、太田文雄に嫁ぎ、茶農家の嫁となりました。

 

<茶農家に嫁いで…>

太田淑子:嫁入り当時大変やったんは、とにかく人の世話です。

昔は、お茶の時期になると、茶摘み子さんや男の人が宇治や奈良、遠くは姫路から手伝いにきてました。

そのほとんどが泊り込みで、その20人程の世話と、家族8人の世話が義母と私の仕事でした。
雨で畑仕事がなくても、3度の食事の世話はせんならん。
毎回、給食みたいな食事の量でした。

宇治からの茶摘み子さんで、泊りでない人らの送り迎えをすることもありました。
朝4時に起きて摘み子さんを迎えに行って、夕方6時になったら送っていく。
その間に泊り山の食事の準備や家事を済ませました。
昔はケンズイ(食事の合間に出す間食のこと)のおにぎりもぎょうさん(たくさん)作ったもんです。

 

編集担当:嫁入り当時は、畑へは入らず、専ら人の世話に明け暮れたそうです。
茶の仕事に係わるようになったのは、子どもの手が離れてから。

覆下の骨組や杭打ちなどの力仕事もこなし、施肥や草曳き、防除のホーズ持ちなど、五代目孫右ヱ門の茶づくりを支えてきました。
木津川が氾濫した時には、夫と共に、胸まで水に浸かりながら茶木の上の流木を片付けたこともあったとか。

冬場は義母に教わりながら、菰編み、藁編みもしたそうです。

そして、5月~6月の茶摘みのシーズンには、摘み子さんの取りまとめという重要な役割があります。
現在、孫右ヱ門の茶園では、総勢約80名の摘み子さんがいます。
そんな摘み子さんを取りまとめるのは、今も昔も変わらず、茶農家の嫁の役割なのです。

 

<お茶摘みの仕事について>

太田淑子:お茶摘みは、人の采配が大変です。

摘み子の取りまとめを任されるようになってすぐは、年配の摘み子さんに気を使ったもんです。

気を使って、摘み方の注文もでけへん(できない)こともありました。

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とにかく、茶園の中では、摘み子さん同士仲良くしてもらうのが一番です。
摘み子は殆どが女ですから、いざこざもあるんです。
来てくださる摘み子さんそれぞれにこまめに声かけて、あまり摘めてない人がいたら、足して入れてあげたりもしてます。
茶摘みにきて、楽しかったと言うて、また来年も来ようと思ってもらえるように気を配ってます。

茶園の中では、摘みながら色んな場所で色んな話が飛び交っててほんまに賑やか。
摘み子さんの中には、お料理やお花や茶道の先生もいた時があって、みんなそれぞれ知恵の交換をして楽しかったのを覚えてます。

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編集担当:

抹茶の品質の要は、まず「摘むこと」にあります。
製茶工場に持ち込まれる一芽一葉が、どのように摘まれたかが重要になってきます。
その「摘む」ことを担ってきたのが、「摘み子さん」です。
その摘み子さんを取りまとめ、世話をしてきたのが茶農家の嫁なのです。
現在では、熟練の摘み子さんも高齢化し、摘み子の確保が難しくなってきています。
おかみさんは、毎年摘み子さんが集まるかどうかがいつも頭の中にあるそうで、「お茶摘みが始まって摘み子さんの顔を見るまでは安心できない」と話します。

 

<茶の仕事の苦労について>

太田淑子:取材なんかで「苦」は何ですか?と聞かれますけど、「苦」と思ったことはないです。

茶農家に嫁いだ以上、力仕事でも何でも、言われたことはしていかんならん(していかなければ)と思ってやってきました。

何でもしていかんと茶はできないから。

 

<茶の仕事で一番嬉しい瞬間は?>
太田淑子:やっぱりそれは、製造が終わって、美味しい味のお茶ができた時です。
ええ旬にとれたお茶は、ほんまに美味しい。

それと、茶摘みが始まって、茶園に入ったとき。
覆下の茶園に入った瞬間に、お茶の甘いええ匂いがするんです。
寒冷紗よりも「ほんず」の方が、ええ匂いがする。
ああ、今年も新芽のいい匂いがしてきたなぁと思うときが一番嬉しいかな。

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編集担当:そう言って、濃緑色の茶園の光景を思い浮かべているのか、嬉しそうな顔をするおかみさんに、ああこの人は真の茶人なのだと思いました。

茶道など文化面においては、多くの女性が華やかな和服に身を包み、美しい佇まいで、非日常的空間を見事に演出しています。
しかし茶道においては、所作や規矩に重きが置かれ、その場で供される抹茶について、味、香り、色合い、またどのようにして作られたのか、生産や加工については特別な関心を払われる方が少ないように感じます。

今回、茶農家の嫁としての太田淑子を紹介させていただいたのは、こうして土と共に生き、泥まみれになって茶を育てている女性が京都の茶を支えていることを、多くの方に知っていただきたかったからです。
太田淑子をはじめ、京都の茶業に関わった女性達の生き様をまとめた本がこの度出版されました。
「京の茶を支えた女人たち」杉本 則雄 著

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茶摘みの歌にも「摘まにゃ日本の茶にならぬ」とあるように、多くの摘み子さんやその裏で世話をする茶農家の女たちなくして、茶はできないのです。
このコラムを読んでくださった方々が、どこかで抹茶を口にする時、そんな女性たちに思いを馳せていただければ幸いです。

 

さて、今年も僅かに新芽が萌え出はじめ、茶摘みの季節ももうすぐそこに近づいてきました。
5月に入ると、摘み籠を持った女性たちが次々と覆いで囲われた茶園の中へ消えていきます。
今年も孫右ヱ門の茶園は、茶摘み子たちの賑やかな声に包まれることでしょう。

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夏も近づく八十八夜

野にも山にも若葉が茂る

あれに見えるは茶摘みぢやないか

あかねだすきに菅(すげ)の笠

 

日和(ひより)つづきの今日このごろを

心のどかに摘みつつ歌ふ

摘めよ摘め摘め摘まねばならぬ

摘まにゃ日本の茶にならぬ

「茶摘み」(文部省唱歌)

歳時記vol.1 木津川と「桜づつみ」


2015年4月3日

今回は当社の茶園があります、木津川の堤をご紹介したいと思います。

わたくし編集担当、いつもは河川敷の茶園におりますが、今日はてくてくと堤防沿いを歩いてみることにしました。

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木津川は三重県の青山高原を源に、名張川から木津川となって城陽市の西端をゆったりと流れる一級河川です。

木津川の堤防沿いは「市民の憩いの場に」と堤防約6.5kmのうち6地区に桜や梅、ユキヤナギなど様々な植物が植えられています。

中でも桜のトンネル「桜づつみ」は見ものです。

今、この「桜づつみ」では、ちょうど桜が満開を迎えています。

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のんびりと散歩をする人、桜の下でお弁当を食べる人など、それぞれお花見を楽しむ姿が見られます。

青空の下、満開の桜のトンネルを春風が吹き抜けると、とても清々しい気持ちになります。

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ふと足元を見ると、ツクシも生えていましたよ。

他にもゆっくり探せば色々な野草が見つかりそうです。

「桜づつみ」から堤防を挟んで反対側には、茶園が広がっています。

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茶園を通り越して、川へ降りてみました。

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河川敷はまるで海の砂浜のようです。砂浜のように見えるのは、木津川一帯の土壌が砂質だからです。

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水もきれいなんですよ。

 

茶業を営む私たちにとって、木津川はなくてはならないものです。

歴史をさかのぼると、木津川は幾度も恐ろしい水害をもたらしました。

しかし、水害は同時に肥沃な土壌という大いなる恵みも与えてくれました。

水はけの良い砂質土と、幾度の洪水によりもたらされた肥沃な土壌のおかげで、色鮮やかで美味しい抹茶を作ることができるのです。

こうして、水辺の砂地で作られたお茶のことを「浜茶」と呼びます。

浜茶は、山間部で栽培される「山茶」に比べ、緑色が濃く、鮮やかになります。

 

さて、木津川散策の締めは、「浜茶」で野点(のだて)です。

野点といっても、毛氈を引いたり、野点傘を立てたりしませんよ。

編集担当おすすめの「野点(のだて)ピクニック」です。

キャンプ用などのプラスチックのお椀とティースプーン、茶筅と抹茶、お水とお湯があれば、もう準備万端です。

あとは、抹茶のお供にお菓子があれば、なお良しです。

今日のお菓子は、もちろん桜餅。

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満開の桜の下で抹茶なんて、贅沢でしょう?

これからの季節、アウトドアで抹茶「野点ピクニック」はいかがですか?

木津川桜づつみへは、近鉄京都線富野荘駅から徒歩10分、近鉄京都線寺田駅から徒歩26分、JR奈良線長池駅から徒歩26分

詳しくは、こちらの地図をご覧ください。