コラム孫右ヱ門

歳時記vol.7 ヨシ刈り


2016年2月4日

今日は立春です。
まだまだ外は寒いですが、暦の上では春が始まる日。
立春は一年の始まりとされて、決まりごとや季節の節目の起算日になっています。

「夏も近づく八十八夜…♪」と茶摘みを歌った唱歌がありますね。

地域の気候によっても異なりますが、弊社の茶園では、立春の今日を初日として、およそ八十八日目、5月2日頃に茶摘みの始まりを迎えます。

そんな茶摘みまでの冬の間、茶農家は何をしているかというと、茶園に施肥をし、茶棚を組み直し、茶園を覆うための寒冷紗や葦簀(よしず)の補修をするのです。
よしずは自然素材なので、風雨に晒されるとどうしても傷んでしまいます。

弊社は宇治川で採れた葦(ヨシ)を仕入れて、冬の間に傷んだ箇所を補修しています。

今回、編集担当は、弊社の茶づくりに欠かせない葦簀(よしず)の原料である、宇治川のヨシ刈りを体験しに行ってきました。
ご協力いただいたのは、以前このコラムでも紹介させていただいた宇治川のヨシ原を管理されている山城萱葺株式会社様と城陽いきもの調査隊の方々です。
OLYMPUS DIGITAL CAMERA今回ヨシ刈り体験をさせていただいたのは、宇治川河川敷にある約35ヘクタールほどのヨシ原です。
宇治川のヨシは太くて丈夫なため、葦簀(よしず)の原料に最適で、宇治茶の生産にも大変寄与してきました。
ヨシの大きいものでは、4m近くにもなります。
OLYMPUS DIGITAL CAMERA昔はヨシを扱う業者も多く、ヨシ原ももっと広大だったのですが、外国産の安価なよしずに押され、また弊社のように葦簀(よしず)を用いた伝統的な茶づくりをする農家が大幅に減少したため、ヨシ原を管理するのは、現在山城萱葺株式会社様たった一件となってしまいました。
現在は、そのほとんどが重要文化財の萱葺屋根などの用途に使われています。

歴史的にもこのヨシ原は古く、石田三成が秀吉からこの地域の葦(ヨシ)と荻(オギ)の権利をもらい、莫大な利益を得て、軍資金に活用したという逸話も残っています。
現在は機械で刈られていますが、今回の体験では三成の時代に思いを馳せて、鎌を用いて手で刈りました。

4m近くにもなるヨシを手で刈っていくのは、なかなか大変な作業です。
子どもたちも一生懸命頑張っていましたが、宇治川のヨシは本当に太くて丈夫です。
子どもの力では一本ずつしか刈れません。
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OLYMPUS DIGITAL CAMERA刈ったヨシはひとまとめにして束ね、テントのように立て掛けていきます。
あちらこちらにこのようなヨシのテントが並んでいる光景は、宇治川の冬の風物詩です。
OLYMPUS DIGITAL CAMERA葦簀(よしず)は「ほんず製法」には欠かせません。
寒冷紗(黒い化学繊維)もよしずも霜除けのため、また茶園を遮光して茶葉の甘味、旨味を高めるためという目的は同じですが、
寒冷紗に比べて、葦簀(よしず)と藁で覆った方がなぜか旨味も香味も深くなります。
そして、大霜の時でも、寒冷紗より葦簀で覆った茶園の方が霜にやられなかったという経験もあります。
それは、ヨシの中が空洞になっているためだと言われています。
ヨシは日本家屋のように、湿度が高いときには湿度を含み、湿度が無い時に湿度を吐き出す効果があるのです。
それが化学繊維の寒冷紗との大きな違いです。
OLYMPUS DIGITAL CAMERA近年、国産のヨシの確保は大変難しくなってきています。
自生しているヨシを活用しようとする動きもありますが、やはり人の手により管理されていないヨシは太さや形がバラバラで、なかなか使い物にはなりません。
この宇治川の冬の光景が、いつまでも受け継がれていくことを願い、一生懸命ヨシを刈らせていただきました。

協力:山城萱葺株式会社、城陽いきもの調査隊

歳時記vol.6 「お正月のお茶」のお話


2016年1月15日

2016年最初の記事は「お正月のお茶」についてのお話です。

おせちやお雑煮などお正月定番の食べ物がありますが、お茶にもお正月ならではのお茶があるのをご存知でしょうか?

それは「大福茶(おおぶくちゃ)」です。
京都を主とする関西で、お正月に新年の喜びと、その年の無病息災を祈って飲むお祝いのお茶で、梅干しと結び昆布にお茶を注いだものです。
注ぐお茶は煎茶や玄米茶など、お茶屋さんや家々によって様々です。
大福茶

大福茶のはじまりは、平安時代。
村上天皇が在位していた960年ごろのこと。
当時、京の都では疫病が流行していました。

そこで六波羅蜜寺(京都)の空也上人は、十一面観音を彫って車に乗せて市中を引き周り、祇園の南林に釜を掛け、茶葉を煎じて、八葉の蓮華にかたどった八つ割の茶筅で振り立て、中に梅干しと昆布を入れたものを仏前に供えて、病人にのませたところ、たちまち全快し、疫病も治まったと言われています。

その後、村上天皇がその徳にあやかって、毎年正月三ヶ日にこのお茶を飲むようになったことから、皇(王)服茶(天皇が飲むお茶)と言われるようになりました。

皇(王)服茶は、厄除け、幸福を招くという意味から「大福」の字が当てられ、以来正月の行事として庶民の間にも広まりました。現在でも、京都の六波羅蜜寺でが正月三ヶ日に大福茶が振舞われています。
お正月に京都を訪れる機会があれば、足を運んでみてはいかがでしょうか?

茶道の家元では、元日の朝に大福茶で祝うのがしきたりとなっているようです。
裏千家では、元日の朝、虎の刻(午前4時)に、当主が汲み上げた若水を沸かして、千利休居士の木像にお茶をお供えするのだそうです。
その後、家元のお点前で家族一同が濃茶を回し飲みし、この時お菓子の代わりに梅干しと昆布を食べるのだそうです。
この行事は、家元の家族や業躰(内弟子)先生のみ許されたもので、一般には目にすることができない行事です。

お正月のお茶といえば、もうひとつ、茶道の「初釜」があります。
「初釜」は新年最初に行うお茶会で、正月中旬ごろまでに催されます。
初釜は年の初めを寿ぐ意味で催すものですので、道具やしつらえ、お菓子や懐石も干支にちなんだものや、お正月らしいもの、めでたいもので揃えます。
初釜飾り
申の干菓子
懐石香の物 のコピー
例えば、初釜には必ず床の間か席の楊枝柱にある柳掛釘へ青竹の花入を掛け、枝を中間で結んで輪にして、残りは長く床に垂らします。
そして、「蓬莱山飾り」といって三宝に鏡餅のように炭を飾ります。
茶人にとって「炭」はとても大切なものですから、一年の茶の湯成就を願って特別な飾りが施されます。
蓬莱山飾
飾り方は様々で、写真は略の飾りですが、
正式には三宝に載せた奉書に裏白とゆずり葉を四方に敷き、洗い米を敷き詰め、奉書で巻いた炭の上に昆布、長熨斗を添え、上に橙、前に伊勢海老をもたせかけるといったような何とも豪華なものです。

そして、一年の最初の茶道という意味で、新鮮な「青竹」の道具を使います。
茶筅も、蓋置、花入も、懐石に使う箸も、すべて瑞々しい青竹を使います。
懐石香の物

昨今は三ヶ日でも色々なお店が開いていたりと、なかなかお正月らしい雰囲気を味わえず、一年の始まりを実感することも薄れてきたように思います。
しかし茶道は季節の恵みに感謝し、季節の移り変わりをとても大切にする文化ですので、初釜ではこれぞ「日本のお正月」を体験できるのではないでしょうか。
編集担当も一度体験したいものです。

コラム孫右ヱ門は、今年もお茶にまつわる様々なことや、孫右ヱ門に関わる様々な人についての記事をお届けしていきたいと思います。
本年もどうぞ宜しくお願いします。

<写真協力>YUI

歳時記vol.5 口切の茶事と壺荘り(つぼかざり)


2015年10月16日

「口切や南天の実の赤き頃」

南天
夏目漱石がこう詠んだように、木々の実が色づきはじめる11月頃、茶道では茶人の正月とも言われる「口切の茶事」を行います。

この頃、宇治茶師に預けておいた茶壺には、初夏に摘んだ新茶が詰められ、封をして、茶家の元に届けられます。

「口切の茶事」では、この茶壺の封を切って、当年初の濃茶を点てます。
11月は炉開きの時期でもあり、「口切の茶事」では、当年初の新茶を口にできる喜びを分かち合う祝意を持って執り行われることから、茶人の正月と言われているのです。

「口切の茶事」で主役となるのはこの茶壺。
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茶師は茶壺の中に、半袋(はんたい)という和紙の袋に入れた濃茶用の碾茶を収め、その周りに「詰め茶」と言われる薄茶用の碾茶を詰めます。
そして、蓋をした上、三重に和紙を貼って封印し、秋になると茶家の元へ届けます。
茶家は届けられた茶壺に「口覆(くちおおい)」と呼ばれる四方形の布をかぶせ、紅か紫の組紐で亀甲形に編んだ網かけの袋を被せて床の間へ荘ります。
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茶壺網かけ
口切りの茶事では、亭主が最初に網かけの袋を解き、茶壺の口を小刀で切って、中に詰められた濃茶を取り出します。
その後、亭主が再び封印をします。

一度口を切られた茶壺には、網ではなく、長緒、乳緒(ちお)と呼ばれる紐で紐荘りを施します。
茶まつり茶壺
紐の結び方は、表千家と裏千家では少々異なりますが、どちらも大変複雑なものです。
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この複雑な紐荘りは、茶壺を華やかに彩るだけでなく、毒が混入されたりしないよう、保管するための鍵の役割もあります。
茶壷中央、長緒の結びは、輪がいくつも重なって、複雑に見えますが、紐の端を引くと、絡まずにするすると解けるように結ばれています。
結びを知らない人が形だけ真似をして結んでも、次に紐を解くときに絡まってしまったら、誰かが手をつけたことが分かるというわけです。

また、この紐飾りは正面と左右それぞれ違った結び方で、茶道を知る方なら馴染みのある「真・行・草」の心を表しています。
写真は裏千家の壺荘りです。

正面:「真の紐型」両(もろ)なわ結び
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上座(向かって右側):「行の紐型」総角(あげまき)結び
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下座(向かって左側):「草の紐型」淡路結び
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茶道の世界では、この「真・行・草」という言葉がよく使われます。

「真・行・草」とは、もともと書道の真書(楷書)、それを少しくずした行書、さらに行書をくずした草書の三段階の筆法を示したものですが、日本人の美意識を表す表現として茶道をはじめ、絵画表現、折形、庭や建築のデザインなどにしばしば用いらます。

「真」は基本となる型で、最も格式高く整っている。
「草」は、「真」の対極に位置し、型破りなもの。
「行」はその中間で、基本を踏まえながら異なるものを取り入れている。

例えば、茶道の道具でいうと、高貴な人々や神仏に茶を奉る場合に使う唐物道具(中国伝来の道具)を「真」、そうした唐物道具をモデルとした国焼の陶器類などを「行」、そして「真」とは真逆で、土を感じさせる国焼の陶器や竹、木など自然の素材をそのままを生かした道具類が「草」ということになるそうです。

紐荘りひとつとっても、様々な意味がある茶道の世界。
大変奥が深いですね。
紅葉

さて、孫右ヱ門ではこの度、初夏に摘んだ自園の碾茶を茶壺に詰め、適正な温度管理のもと保管してまいりました。
丹精込めて育てた碾茶は、夏を越え、秋が深まるとともに、その味や香りを深めていっております。
そんな熟成されてまろやかになったお茶を味わっていただきたく、秋の深まる頃、孫右ヱ門オリジナル「口切りの儀」を催します。
六代目孫右ヱ門による茶壺の口切りをご覧いただき、裏千家師範 宗忠によるお点前と4人の陶芸作家による茶碗で濃茶を愉しんでいただきます。
石臼で碾茶を挽く「挽き茶」の体験も予定しております。
秋の良き日に、ぜひ京都城陽まで足をお運びください。
もみじ
【日 時】10/25(日)14:00~ または、11/1(日)14:00~(11/1は定員に達しました。)
※13:30近鉄富野荘駅改札口前集合 車にて会場まで送迎いたします。
※終了予定時刻は両日とも17:30を予定しております。

【場 所】株式会社 孫右ヱ門 京都府城陽市水主南垣内20-1

【参加費】3,500円

【参加方法】事前にメールまたはお電話にてお申し込みの上ご参加ください。
※お申し込みは開催日の5日前までにお願いします。
Mail:magouemonkyoto@gmail.com
TEL:0774-52-3232(平日9:00~18:00)

今回行う口切りの儀は、孫右ヱ門オリジナルのものであり、炉を用いず、正客をたてるものではございません。
茶道本来の口切りの茶事とは異なる部分がありますことを、予めご了承願います。
また、茶道が初めての方もご参加いただけるよう、懐紙など持ち物も必要ございません。
服装もご参加いただく皆様の自由とさせていただきます。

口切り… 六代目孫右ヱ門 太田 博文
お点前… 裏千家師範 宗忠 
お菓子… 溝井 茂
陶芸作家…
茶碗:清水 志郎 http://www.shimizuke.net/index.htm
瀬津 純司 http://junjisetsu.jugem.jp
前田 直紀 http://naokimaeda.strikingly.com
皿: 山本 順子 http://homepage2.nifty.com/potter-j/index.html

お問合せは、
株式会社 孫右ヱ門 京都府城陽市水主南垣内20-1
0774-52-3232(平日9:00~18:00)
magouemonkyoto@gmail.com

歳時記vol.4 城陽茶まつり


2015年9月30日

秋分の日も過ぎ、朝夕の冷たい空気に秋の訪れを感じる季節となりました。

初夏に摘んだ茶は、一定の温度と湿度に保たれた場所で夏を越え、秋が深まるとともに熟成されてその味を深めます。
長期保存・熟成することによって、お茶の味や香りに丸みが出て、まろやかでコクのある深い味わいが楽しめるのです。

お茶が美味しさを増すこの時期、孫右ヱ門が所在する城陽では、盛大な「城陽茶まつり」が行なわれます。

城陽茶まつりは、まず「口切の儀」からはじまります。
「口切の儀」は、伝統あるお茶の儀式のひとつで、初夏に摘んだ新茶を詰めた茶壺の口封を切って、茶葉を取り出し、茶臼で碾いて粉末にして、お点前を披露し、神殿に献茶を行うというものです。
茶祭り神饌

口切りは、待ち望んだ新物の茶との出会い、当年初のお茶をいただける喜びの瞬間でもありますので、「茶人の正月」とも言われ、特別なものなのです。

城陽茶まつりは今年で27回目ですが、茶生産家と茶業青年団の団員が毎年交代で「口切の儀」を執り行っています。

茶まつり口切り
茶祭りお点前

孫右ヱ門六代目も過去2回、この口切の儀で茶壺の封を切る大役をさせていただきました。
大勢の方が見守る中、封を切るのはとても緊張するものです。
茶壺の蓋は和紙で封をしてあるのですが、過去幾重にも和紙が貼られいたのか、堅くてなかなか刃が入らず、冷や汗をかいた経験もあります。

口切りの儀が終わると、茶壺は口緒(くちお)と呼ばれる朱色の絹紐できれいに結び飾られます。

茶まつり茶壺

城陽茶まつりでは、この厳かな口切りの儀を間近で見ることができます。

会場は、京都府城陽市富野にあります荒見神社。

茶祭り荒見神社

荒見神社は平安時代中期に編纂された「延喜式」の神名帳にも記載されている名社です。
木津川の洪水から守る水神で、われわれ茶農家にとって大切な神様が祀られています。
本殿は重要文化財で唐獅子や若葉の彫刻など桃山時代の特色がみられる美しい神社です。

口切りの儀の後、お点前の披露がなされ、その後境内では、茶席や茶そば、生菓子、城陽産のお茶の販売、お茶の美味しい淹れ方教室、邦楽演奏など楽しい催しが行われます。

茶まつり邦楽
茶そば

編集担当オススメは、城陽茶まつり限定「茶きんとん」です。
茶きんとん

城陽では、約30戸の農家が、年間約30トンの碾茶を生産しています。
弊社を含め様々な賞を受賞した農家も多く、城陽の碾茶は味・香り・色、全てにおいて優れていると言われています。
そんな城陽産の抹茶をふんだんに使って作られた「茶きんとん」は着色料など一切使わないのにとても鮮やかな色をしています。そして濃茶のような濃厚な味がします。
茶祭り茶まんじゅう

城陽茶まつり限定販売ですので、ぜひこの機会に足を運んでください。

<城陽茶まつり>
日時:  10月18日(日)
9:00~  口切りの儀
10:00~15:00 抹茶席、茶そば席(いずれも有料)、お茶のおいしい入れ方教室、各種茶の展示販売、
茶そば、茶うどん、茶を使用した生菓子、お菓子の販売
場所:  荒見神社(JR奈良線 長池駅徒歩10分)京都府城陽市富野荒見田165

歳時記vol.3 中秋の名月と月見の茶会


2015年9月16日

9月も半ばに入り、暑さが和らいで随分過ごしやすくなりましたね。
9月といえば、中秋の名月。
お月見の季節です。
フルムーン
旧暦の秋は7月、8月、9月ですから、中秋とは秋の真ん中、旧暦8月15日のことを指します。

現在の暦では、今年の中秋の名月は9月27日になります。
翌日の9月28日はスーパームーンで、今年一番地球へ接近する満月ですから、今年は例年よりも大きな中秋の名月が見られるようですよ。

日本では、「月を愛でる」風習は縄文時代ごろからあったといわれています。
日本神話や古事記に月夜見命(ツクヨミミコト)が登場しますように、太陽と並んで月は神聖なものと考えられてきたようです。
ススキ野原後に中国の仲秋節が伝わり、平安貴族の間で、月を愛でながら詩歌や管絃を楽しむ月見の宴が催されるようになりました。
平安貴族たちは、直接月を見ることをせず、池や杯に映る月を見て宴を愉しんだそうです。
水面の月なんとも優雅ですね。

茶道の世界では、「みたて」という月見の愉しみ方があります。
主人はお軸が持つストーリー、水差しや茶碗の形や色、道具の持つ意味、そういったものすべてを「お月さま」をテーマに合わせて設えます。
客人は実際に月が見えなくても、心の豊かさや五感で茶室に月を感じます。
それが「みたて」、日本人独特の美意識ですね。

さて、この季節、京都では平安時代より受け継がれた様々な観月の祭が現在も各所で行われています。
ここ京都山城地方でも、宇治の黄檗山萬福寺で「月見の煎茶会」が行なわれます。
OLYMPUS DIGITAL CAMERA萬福寺は中国・明出身の高僧、隠元(いんげん)が建立した禅宗寺院です。
隠元和尚建物や仏像、儀式や精進料理に至るまですべてが中国風で、異国情緒溢れるお寺です。
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萬福寺は、煎茶に大変縁の深いお寺でもあります。
隠元禅師の渡来に伴い、当時中国文人の間に流行していた煎茶の風習が伝えられました。
そのことから、境内には「有声軒」という煎茶風茶席と庭園、全日本煎茶道連盟の本部があります。
煎茶道灯篭にも「煎茶道」の文字が見えますよ。

境内の「売茶堂」には煎茶道の祖、高遊外売茶翁(まいさおう)(1675−1763)が祀られています。
OLYMPUS DIGITAL CAMERA売茶翁(まいさおう)は、上流階級の文化だった喫茶の風習を庶民にまで広め、その煎茶趣味を一つの世界を形成する煎茶道にまで導きました。
また、鴨川のほとりに日本初の喫茶店といわれる「通仙堂」という茶店を構え、時に自ら茶道具を担いで禅を説きながら、茶を煎じて各地に売り歩いたと言われています。

そんな煎茶の聖地、萬福寺で「月見の煎茶会」が行なわれます。

瑞芽庵流
黄檗売茶流
美風流
雲井流
小笠原流
方円流
二條流
一茶庵流
8つの流派がそれぞれ月見やお寺にちなんだお席を設えます。

萬福寺は蓮の花でも有名ですので、なんと蓮の花に煎茶を注いだお茶が出されたこともあるそうですよ。
ハス茶
「月見の煎茶会」は、お煎茶の作法を知らなくても誰でも気軽に参加できます。
異国情緒溢れるお寺での珍しい煎茶のお茶席に、足を運んでみるのはいかがでしょうか?

日 時 2015年10月3日(土) 14時30分~19時 雨天決行
会 場  黄檗山萬福寺
茶 券  3,500円 (入山料込・入席券3枚)
お申込や詳細については全日本煎茶道連盟のHPをご覧ください。http://www.senchado.com

実際に月を愛でるも良し、「みたて」を愉しむも良し。
秋の夜長、皆様はどのようなお月見を愉しまれるでしょうか?
今年の中秋の名月、素敵なお月見様が見られますように。

歳時記vol.2 「祇園さまのお献茶」と「祇園の御神水」


2015年7月15日

7月に入り、京都市中は祇園祭一色となっています。

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7月14日〜16日は、宵山(前祭)です。
宵山には、各山鉾町で山鉾を飾り、旧家や老舗では、代々伝わる屏風や道具が美しく飾られます。

市中は雑踏し、コンチキチンの祇園囃子の音色とともに祇園祭の情緒が盛り上がります。
明日16日は、いよいよ明後日に迫る山鉾巡行に向けて、祭りの熱気がピークに達します。

そんな16日宵山の朝、八坂神社では午前9時から本殿で「献茶祭」が行なわれます。

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「祇園さまのお献茶」とも呼ばれるこの献茶祭は、祇園祭の安全と茶道の発展を祈るため、昭和21年に始まりました。
以来、表千家、裏千家お家元が、毎年交互にご奉仕される恒例行事となっています。
今年は、裏千家家元 千 宗室宗匠のご奉仕です。
お家元、祇園祭の関係者、来賓が本殿に着座すると献茶祭が始まります。
献炭ののち、16日の早朝に境内の井戸から汲んだ「祇園の御神水」でお家元が濃茶、薄茶を点てられ神前に供えます。
お点前が終わると、能舞台で長刀鉾町衆による祇園囃子が奏でられます。

 

さて、この「祇園の御神水」(「八坂の神水」とも「力水」とも呼ばれている)ですが、八坂神社の境内にこのような湧水があることをご存知でしたか?

本殿正面に能舞台があり、その東側、大神宮の前の小さな苔生した手水処が「祇園の御神水」です。

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京の都は、北は玄武、南は朱雀、西は白虎、東は青龍に護られた地です。
八坂神社の本殿下には龍穴と呼ばれる深い池があり、都の東を守る「青龍」が住んでいると伝えられています。
青龍の住む龍穴から湧く霊水として、地元では「祇園の御神水」のことを「力水」とも呼んでいるそうです。

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「飲用水ではありません」と但し書きがありましたが、ペットボトルで御神水を汲みに来た方に伺ってみると、

「地元ですから、祇園さんの水は昔からよう飲んでます。」とのこと。

それを聞いて、編集担当も早速いただいてみました。
地下約90mから湧き出ているそうで、さすがに冷たい!
とても蒸し暑い日でしたので、冷たくてまろやかな御神水は、まさに力水だと感じました。
このお水をいただいてから、お隣の美御前社を詣でると美人になるといわれているそうです。
もちろん、お参りしましたよ。言い伝えが本当なら嬉しいのですが…。
明日の献茶祭は、茶道や祭事関係者、招待客の方しか参列できないそうなので、せめて祇園の御神水でお茶を点ててみようと、ペットボトルに入れて持ち帰り、抹茶を点ててみました。
(本殿には上がれませんが、境内のモニターで献茶祭の様子をご覧になることはできます。)

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パワー溢れる御神水で点てた抹茶は格別で、ありがたい気持ちになりました。
(御神水は生水ですので、ご心配な方は一度煮沸してから飲むことをお勧めします。)

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明日16日の献茶祭では、八坂神社境内のほか周辺9カ所で特別なお茶席が設けられます。
祇園の中で最も格式高いお茶屋さん「一力亭」や、「中村楼」「美濃幸」といった老舗の料亭がそれぞれ趣向を凝らしたお茶席、喫客をもてなします。
「一力亭」では、なんと舞妓さんがお運びをしてくださるそうです。
滅多に足を踏み入れることのできない「一力亭」ですので、大変貴重な機会ですね。
一度は体験してみたいです。

 

これらのお茶席券は、茶道の先生や関係者からしか入手することができませんが、菊水鉾のお茶会など、一般の方も参加できるカジュアルなお茶席もあります。
山鉾だけでなく、献茶祭や祇園祭ならではの趣向を凝らしたお茶会など、祇園祭の違った楽しみ方はいかがでしょうか?

歳時記vol.2. 茶摘みがはじまりました


2015年5月1日

地元の氏神様である水主神社の西側に、当社の茶園の一画があります。

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5月1日、よく晴れて空気が少しひんやりとした朝。
午前6時を過ぎると、自転車や軽自動車に乗って、近隣から続々と茶園に人が集まってきました。

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「いやぁ、元気しとった?」
「今年も顔見れてよかったわぁ!」
一年ぶりに顔を合わす摘み子さんたちの声で、辺りはにわかに賑わいました。

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覆いで囲った茶園に足を踏み込むと、ふわぁっと甘い薫りに包まれます。

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いよいよ今日から茶摘みがはじまります。

茶摘みがはじまった今日、当社が位置する城陽市内の小学校では、「八十八夜献立」ということで、碾茶(てんちゃ)を使った「茶めし」と「茶葉のローストチキン」が出るそうです。
さすが茶どころですね。

さて、今年も本格的に茶のシーズンが始まりました。
今年はどんなお茶ができ上がるのか、楽しみにしていてください。
(碾茶てんちゃ…石臼で引き上げる前の、抹茶の原料となる原葉)

歳時記vol.1 木津川と「桜づつみ」


2015年4月3日

今回は当社の茶園があります、木津川の堤をご紹介したいと思います。

わたくし編集担当、いつもは河川敷の茶園におりますが、今日はてくてくと堤防沿いを歩いてみることにしました。

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木津川は三重県の青山高原を源に、名張川から木津川となって城陽市の西端をゆったりと流れる一級河川です。

木津川の堤防沿いは「市民の憩いの場に」と堤防約6.5kmのうち6地区に桜や梅、ユキヤナギなど様々な植物が植えられています。

中でも桜のトンネル「桜づつみ」は見ものです。

今、この「桜づつみ」では、ちょうど桜が満開を迎えています。

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のんびりと散歩をする人、桜の下でお弁当を食べる人など、それぞれお花見を楽しむ姿が見られます。

青空の下、満開の桜のトンネルを春風が吹き抜けると、とても清々しい気持ちになります。

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ふと足元を見ると、ツクシも生えていましたよ。

他にもゆっくり探せば色々な野草が見つかりそうです。

「桜づつみ」から堤防を挟んで反対側には、茶園が広がっています。

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茶園を通り越して、川へ降りてみました。

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河川敷はまるで海の砂浜のようです。砂浜のように見えるのは、木津川一帯の土壌が砂質だからです。

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水もきれいなんですよ。

 

茶業を営む私たちにとって、木津川はなくてはならないものです。

歴史をさかのぼると、木津川は幾度も恐ろしい水害をもたらしました。

しかし、水害は同時に肥沃な土壌という大いなる恵みも与えてくれました。

水はけの良い砂質土と、幾度の洪水によりもたらされた肥沃な土壌のおかげで、色鮮やかで美味しい抹茶を作ることができるのです。

こうして、水辺の砂地で作られたお茶のことを「浜茶」と呼びます。

浜茶は、山間部で栽培される「山茶」に比べ、緑色が濃く、鮮やかになります。

 

さて、木津川散策の締めは、「浜茶」で野点(のだて)です。

野点といっても、毛氈を引いたり、野点傘を立てたりしませんよ。

編集担当おすすめの「野点(のだて)ピクニック」です。

キャンプ用などのプラスチックのお椀とティースプーン、茶筅と抹茶、お水とお湯があれば、もう準備万端です。

あとは、抹茶のお供にお菓子があれば、なお良しです。

今日のお菓子は、もちろん桜餅。

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満開の桜の下で抹茶なんて、贅沢でしょう?

これからの季節、アウトドアで抹茶「野点ピクニック」はいかがですか?

木津川桜づつみへは、近鉄京都線富野荘駅から徒歩10分、近鉄京都線寺田駅から徒歩26分、JR奈良線長池駅から徒歩26分

詳しくは、こちらの地図をご覧ください。